エンプティープリンス

鏡を見た彼女は目を丸くしている。


「えっ…こんな短時間で…すごいわ…。
なんだか…別人みたい…。」

「気に入った?」

「…ええ。もちろんよ。」

「良かった。
でもほとんど俺の力じゃないから。
元がいいんだよ、先生の場合。」


こう言うと、彼女はちょっと顔を赤らめながら口を開いた。


「…そんなこと言われたのは生まれて初めてよ。
ありがとう、高橋くん。」


そう言って今まで見たことのないような優しい笑顔を見せる彼女。
その笑顔に、ガラにもなく胸が高鳴った。
…落ち着けよ、俺。
いつもより可愛くなったからって胸が高鳴るとか、そんな純粋な想いなんて俺にはもうない。


「…でも高橋くん、どうしてメイクなんてできるの?」

「昔、姉さんが一緒に住んでて、色々手伝わされたからね。」

「お姉さん?」

「そう。
でも、もう今は結婚して家にいないけど。
最近はメイク道具になんて触ってもいなかったのに、意外と忘れてないもんだね、手って。」


俺は自分の両手を見つめた。
その両手をそっと温かい感覚が包む。