「奏くん…ノートとか貸そうか?」

「え?」


目が合っている間に俺抜きで話が色々と進んでいたらしい。
右にいた女の声で、いきなり現実に戻される。


「授業が結構進んだから…もし良ければ…。」

「ああ…多分大丈夫だよ。わざわざありがとう。」



もう一度見上げた先に、もう彼女はいなかった。
先生だから、必要なものを必要のある生徒に渡したら教室から出ていくのが普通だけど、彼女がいなくなった先に、なんだかよく分からない感情が込み上げてくる。


「奏くん…?どうかしたの?」

「あ、ううん。なんでもないよ。」






なんでもない。なんでもない…。
そう自分に言い聞かせた。