母親は数年、弟の面倒を看てたけど(なんか投げやりな面倒の看方だった。俺への暴力もこの頃は極端に減ったな)、程なくして俺に面倒の一切を押し付けてきた。
それまで我慢していた自分の時間を貪るように過ごすようになった。
だから俺が那智を面倒見た。
ミルクとか、おむつとか、ワッケ分からねぇ作業を、時に母親に尋ねながら、俺は那智の世話を献身的にこなしていった。
苦じゃなかった。
俺がいないとこいつは何も出来ない生き物だって知ってたから。
那智が俺に向かって笑ってくれた時、俺はこいつに必要とされてるんだって心の底から安堵した。
そうしてまた月日は経ち、那智は二足歩行や簡単な会話ができるようになる。
この頃から那智は母親という存在に酷く怯えていた。
暴力を振るうも一理あるが、その時の母親の形相が恐かったんだろう。
那智は必然的に俺を求めるようになった。
ある時、俺は母親の命令でスーパーに買い物に行った。
那智を連れて買い物に行ったんだけど、俺がちょっと目を放した隙に那智の奴、目に映る新鮮で興味あるスーパーの光景に惹かれて勝手に離れて行ったんだ。
勿論、弟がいないことに気付いた俺は慌てて那智を探した。
そしたら那智、スーパーの日用品売り場でグズグズ泣いていた。
転びでもして泣いてるのかと思ったら、那智は俺の姿を見つけるや否や懐に飛び込んでワンワン泣き始めた。
『にいしゃっ、にいしゃ…っ、いなくてっ、ごわがっだっ!』
泣く理由を俺に告げてくる弟に、俺は思わず笑みを浮かべてしまった。
那智は俺がいないと駄目なんだって知って、酷く安心する俺がいたんだ。
『勝手に兄さまの傍を離れるからだぞ。
もう離れるなよ。分かったか?』
『っ…ぅ…はいっ…』
何度も頷く那智の頭を撫でながら俺は思った。
もっと那智に必要とされる兄貴であろうって。
必要とされる兄貴であれば、那智は俺から離れるどころか、こうやって求めるに違いない。
永遠に求めてくれるに違いない。
子供ながらの歪んだ独占欲が芽生えた瞬間だった。



