―――…そう、遠い昔から、この未来は決まっていたに違いない。
俺に弟が出来るって知ったその日から、きっと今の未来は決まっていたに違いないんだ。
俺は今でもはっきりと憶えている。
いつも俺を虐げてくる母親に、
「ガキできるから」
って言われた日のことを。
前触れもなしに言われた。
俺に下ができるって。妹か弟が出来るんだって。
唐突に言われた俺はろくに反応も出来ずに、ただただ母親を凝視していた。
ガキ一人を虐げてる母親が、なんで腹にデキちまった子供をおろさない決断をしたのか…。
おろす手術代がなかったのか、それとも別の目論見があったのか、今でも謎の謎だがあの日、俺は人生で初めて至福という喜びに浸った。
だって俺に下の子ができる。
妹か弟が出来る。
じゃあもう、俺は一人じゃなくなるんだ。孤独じゃなくなる。
もう一人寂しく布団で寝なくてもいい。
まだ見ぬ下の子と一緒に寝られる。
いつも誰かと一緒。
嬉しくて嬉しくて俺は部屋でマジ泣きした。
一人じゃなくなる現実に嬉しくて、声を殺して泣いた。
初めて、俺は嬉し泣きを経験した。
その日から俺はカレンダーを眺めるようになった。
いつ下の子は生まれてくれるんだろう。
下の子が生まれたら、必要とされる兄貴になろう。
胸を躍らせながら指を折って日数を数えていた。
母親の暴力に耐えながら、俺はただただ下の子の誕生を待った。
それから月日は経ち、念願の下の子・弟の那智が生まれた。
初めて対面した弟は何だかとても弱そうで、こんな奴が母親の暴力に耐えられるのかって首を傾げたほどだ。
目も開いてねぇし、手も人形みたいに小さいし、体もちっさ過ぎだし…、こいつは俺と同じ生き物なのか? そんな疑問さえ抱いた。
だけど俺は心に決めていた。
こいつに必要とされる兄貴になろうって。
もう孤独にならないよう、しっかりこいつを守っていこうって。



