「兄さまに全部はやれないか?」
その問い掛けに、恍惚に俺を見つめていた那智が唇を震わせる。
魔法が掛かったな。
俺は那智の様子に確信を抱いた。
目を細めて微笑する俺は那智の答えを待つ。
那智は数秒間も置かず、
「兄さまにあげます」
兄さまが望むなら全部ぜんぶあげます。
だっておれ、兄さまが好きですもん。
那智はあどけない顔で笑って俺に飛び付いた。
まだまだ幼い那智は、喜んで俺の魔法に掛かってくれた。
「いい子だ、那智」
「兄さま、大袈裟です。おれ、兄さまが好きだからしてるだけですよ?」
俺は忍び笑いを浮かべる。
抱き寄せて歪む体、ちっせぇ体は真っ直ぐ俺を信じて縋ってくる。
「フツーの弟はこんな嬉しいことしてくれねぇんだよ」
「うちはうち、余所は余所です」
那智は自分のすべてをやる、事の大きさとその本当の意味を知らないだろう。
俺も教えねぇつもりだ。
教えてやってもいいけど、無意味だろうな。
だって教えても、結局那智は俺の望む答えをくれるに違いないから。
「那智の全部は兄さまのものだ」
俺は那智の頭を撫でて固く約束を交わさせる。
俺中心の世界にいる那智を完全に外界に目を向けないために、しっかりと約束させた。
兄さまに“全部”をあげる約束を。



