俺は泣きそうな弟を抱っこして視線を合わせる。
「兄さまが守ってやる。大丈夫。てめぇは何も心配しなくていいから」
だからな、那智。
俺を必要としてくれ。
俺を愛してくれるの、好きだっつってくれるの、てめぇだけなんだから。
父親も母親も、俺を好きだっつってくんねぇ。
てめぇが生まれるまで兄さま、ひとりぼっちだったんだ。
もう兄さま、ひとりぼっちはヤだからさ。
「ずーっと傍にいてくれ。な?」
俺は那智に魔法の呪文を唱える。
毎日のように、俺はこれを那智に言っていた。
俺がひとりにならないための、んでもって那智が俺をずっと必要としてくれるための、自作の呪文だ。
目を擦る那智は俺を見つめて、こっくりと頷いてきた。
「おれ、兄さま好きです。優しいですもん!」
「そりゃ那智だから優しくするんだ」
「おれだから?」
「俺の大事な弟だよ。てめぇは」
へにゃっと幼い弟がはにかんでくる。
擦り寄ってくる弟は、「おなか減った」と元気よく俺に訴えてきた。
「わーったわーった。ちょっと待ってろ」
俺は弟の背中を叩きながら、手放していたお玉に手を伸ばす。
鍋からは三日連続かぎ続けているカレーの匂い。
明日はカレーじゃないといいな。
俺は切に思った。
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