「下川、何をボサッとしてるのよ。さっさと手当てしてあげなさい」
ナナシ女に喝破される。
―…命あっての物種だよな。
悪い、那智。
後で一杯謝るから。
躊躇していた俺は那智のカッターシャツを脱がせて、上半身下着にさせる。
息を呑む声々が聞こえたのはその直後。
生々しい傷痕の数に、瞠目、同情、戸惑い、その他諸々の感情が占めてるんだろうな。
「何これ」
ナナシ女がポロッと口にする疑問。
「虐待の痕」
俺は率直に答えた。
下手に隠すより、暴露しちまった方が気も楽だし、気遣われる心配も少ないと踏んだんだ。
「これは俺と那智の生きた証」
「じゃあ治樹、お前も…?」
「ああ」
優一の疑問に淡々と返事し、俺は那智の傷を消毒していく。
手伝おうかと安河内の申し出を、
「那智が恐がるから」
俺は丁重に断った。
他人に傷を曝け出したんだ。
触られるなんて言語道断だろう。
静まり返る室内。
周囲が片付けをしてくれる中、俺は那智の手当てに専念していく。
ある程度、手当てが済んだ頃、那智も意識は夢路へと沈んでいっていた。
怪我の手当てを済ませた俺は、那智の手を握り締めてそれを口元に運ぶ。
ギュッと力強く握り締めて、気を失っている那智を見つめた。
穴をあけるように那智を見つめ続けた。
「那智…、悪い。
兄さまが傍にいなかったからだよな。てめぇを守るって約束したのにっ、俺はてめぇを守れなかった。
大学なんて行くんじゃなかった。
今日も休めば良かったんだ。一緒に過ごしてやれば良かったんだ。
那智っ、那智ッ、目を開けてくれ」
ごめん、那智。
俺が離れなきゃ良かったんだ。
那智から離れなきゃこんなことにはっ、那智っ…、今度はちゃんと守るから。
だから目を開けて、俺の名を呼んで、また必要としてくれ。
―…必要としてくれ。那智。



