ナナシ女の部屋は大学向こうの歩道を渡って五分のアパートにあった。
一階の部屋を借りているらしい。
階段をのぼる手間が省けたおかげで、俺はそう時間を掛けずに那智を部屋の中に運ぶ事が出来た。
ナナシ女の部屋は何だか、可愛らしいっつーの?
そういう部屋の模様をしていた。
女の部屋って不思議な空間だ。
全体的に空気が桃色にさえ見えた。
だけど、そんなことを能天気に思っている場合じゃない。
俺は那智を絨毯の上に寝かせる。
ナナシ女が汚れてもいいから、そう言ってくれたおかげで容易に那智を寝かすことが出来た。
学ランの上衣を脱がせるとカッターシャツが所々赤く染まっている。
主に腕が赤く染まっていた。
鋭利な刃物で刺されたのかもしんねぇ。
シャツの破れた口を観察すると、綺麗に繊維が切れてやがる。
那智の血を見るだけで、俺は気が狂いそうだった。
今は他人がいるから気丈に振舞ってるけど、人がいなかったら俺は気が動転していたに違いない。
止血するためにナナシ女から渡されたタオルを患部に当てる。
馬鹿みたいに手が震える…、俺がいた。
成り行きだが、その場に居合わせてしまった優一と浩司が、安河内と一緒に後からやって来て部屋に入ってくる。
薬局から傷薬やらガーゼやら消毒液やら包帯やら買って来てくれたらしい。
応急処置程度にはなるだろう、浩司は俺にそれ等が入ったビニール袋を手渡してくる。
受け取った俺は礼を言う。
これから那智の制服を脱がせて応急手当をした方がいいんだろうけど、俺はそれ以上動けなかった。
那智は極端に他人に肌を見せることを嫌ってる。
こいつ等がいると那智が傷付くんじゃないかって思ったんだ。



