なんで那智がこんな怪我をっ。
いやそんなことより病院…、いや那智は病院を酷く拒むに違いない。
野次馬たちの視線から守るように那智を抱えた直後、
「あんた!」
ナナシ女から声を掛けられる。
ナナシ女は俺の腕を引いて、こっちに来るよう言って来た。
曰く、ナナシ女は一人暮らし。
近くに住んでいるらしい。病院よりも自分の家の方がうんと近い。
大学構内にある保健室に向かうよりも家の方が近い。
自分の家で手当てをしよう。
俺に敵意を向けていたくせに、血相を変えて俺に部屋に来いって言う。
つくづく変な女だと思ったけど、ナナシ女の誘いに俺は考える余地も無かった。
頷いて那智を背負うと、ナナシ女の誘導のもと、奴と一緒に駆けた。
荒呼吸を繰り返す那智の息遣いに背筋が凍る。
朦朧とだけど意識はあるみたいだ。
「ごめんなさい」
息遣いの合間あいまに、迷惑を掛けた謝罪の声が聞こえる。
なんで那智がこんな目にっ…、なんで那智がっ…、なんでっ。
俺の中で大きな動揺と混乱、そして、那智を失うかもしれないという多大な不安が胸を占めた。



