険悪なムードが漂い始める。
鼻を鳴らして倒れた椅子を起こす俺に対し、ナナシ女は煮え滾る思いを噛み締めてるのか、握り拳を作っていた。
優一と浩司が此処は学食だからって俺等を宥めてくれるけど、俺もナナシ女も怒り心頭。
声は届かない。
そうこうしている内にナナシ女の仲間がやって来た。
一昨日も見かけたナナシ女の仲間、名前は安河内 友香(やすこうち ともか)って言うらしい。
「朱美。またこいつに突っ掛かってたの?」
「だって友香!
彩加の気持ちを踏み躙った男だよっ…。
今日だって大学来てないし。文句だって言いたくなるし、謝らせたいじゃん!」
「そっちは弟を傷付けた。お互い様だろうが」
「何よ」
「何だよ」
青い火花を散らして睨み合う俺等の仲に割って入って来たのは浩司だった。
「人様の迷惑になってる」
厳しく注意する浩司に、ナナシ女は些か反省の色を見せる。
けど俺は反省しねぇ。
俺は悪くない。
ムッスリしてる俺とナナシ女、んでもって安河内に浩司は座るよう強要した。
話し合いの場を提供してくれてるんだろうけど、俺は話し合う気なんて無い。
ナナシ女が投げ捨ててくれた文庫を拾ってどっかりと椅子に腰掛ける。
浩司と優一がそそくさと俺の方に移動してきた。
その場所にナナシ女と安河内が腰掛ける。
本格的に話し合うみてぇ…。
あーあ…、なんでこんなことになっちまったんだ。
どう話し合われても、俺は謝る気なんてねぇんだけど。
俺は拾った文庫を鞄に放ると、不貞腐れながら食事を再開する。
「この状況で食事再開かよ!」
優一に呆れられたけど、俺の知ったこっちゃねぇ。冷めかけたオムライスを頬張る。
俺の態度にナナシ女が舌打ちを鳴らしてきたけど、安河内が奴を宥めて俺にそっと話し掛けてきた。



