「急に言われても出てこねぇな。
那智、どんな話聞きたい?」
「じゃあ、大学って場所のお話が聞きたいです。
面白いですか?」
兄さまはぶっすーって顔を顰める。
「大学なんざおっもしろくねぇの一言だぞ。
こうして那智と話してる方が数百倍も価値がある。
勉強も大したことねぇしな」
「それは兄さまが頭が良いからです。羨ましいな…、おれも兄さまのように英語ができるようになりたいです。
TOEICってテスト、凄く点数良かったんでしょ?」
「英語は慣れだ慣れ。俺がみっちり教えてやるから安心しろ。
あーあ、それにしても大学、明日はサボっちまおうかなぁ。
なんっかメンドクセェ女が出てきやがったし…、那智、明日は一日中兄さまと過ごすか? どっか出掛けてもいいし」
おれの顔を覗き込んでくる兄さまは、本当に大学をサボりたさそうだ。
大学はそう何度も休んでも大丈夫なんだろうか?
疑念を抱きながらも、おれは笑みを浮かべてみせる。
「兄さまがいいなら…、おれ、明日は兄さまとお家で過ごしたいです」
「家?」
「勉強も教えてもらいたいですし、一緒にDVDを借りて観たいですし、何より二人きりの時間を邪魔されたくないです。
おれ、今日は人の目に疲れちゃいました。
どうして他人はおれ達の存在を無視していたのに、今になって目を向けるようになったんでしょうね…。
おれは兄弟同士で手を繋いでもおかしくないと思うのに。
だから兄さま、明日、お家で過ごしましょう」
言葉を選びながら、おれはおずおずと兄さまにお願いした。
二人きりで過ごしたい。それは本音だ。
だけど二人きりで過ごしたい、一番の理由は兄さまのためだ。
取り乱した兄さまの心に本当の平穏を与えたいから、おれは兄さまと家にいたい。
外に出るとどうしても兄さまはおれを守ろうと気を張るから、明日は周囲の目やおれに気を遣わせず、ゆっくりとリラックスして欲しい。
その意を込めておれはお願いする。
家で過ごそうって。
瞠目していた兄さまの顔が見る見る変わっていく。
どことなく子供っぽい、あどけない笑顔を作って、兄さまはおれの頭に手を置いた。



