「兄さまのエーッチ! 見ないで下さいよ!」
「ぷははっ、何がエッチだ。見慣れてるっつーの。
大体てめぇは強くならなくたっていいんだぞ、那智」
そ、そりゃもう…強くならなくたっていいかもしれない。
兄さまが筋トレしてたのは、おれと自分をあの家から連れ出してくれるためだったから。
でも…。
守られるだけじゃヤなんだ。
「兄さまに、おれ、してもらいっぱなしですもん。
ドラマでは好きな人を守るために強くなるってフレーズをよく耳にします。
兄さまだっておれのために強くなりました。
おれも強くなりたいです」
「その気持ちだけで十分だ」
無理して怪我でもされたら困る。
兄さまは洗面器でお湯を掬うと、体についた泡を洗い落とした。
排水溝に真っ白な泡が小さく溶けながら水と一緒に流れ向かっていく。
「交替だ」
言われて、おれは浴槽を出た。
ざぶんと湯船に浸かる兄さまは浴槽の縁に肘を置いて、バスチェアに腰掛けるおれに視線を投げてくる。
「強くはならなくていい。兄さまが全力で守ってやるから。それが兄貴の役目だろ?
だから那智、てめぇは兄さま以上の一番を作ってくれるなよ。
てめぇ以外の家族も恋人も他人も俺はいらねぇ。
那智さえいれば俺は生きていける」
「おれも兄さまさえいれば、生きていけますよ。ずっと一緒にいたいです」
「いたいんじゃねえ。いるんだろ?」
「はい、います」
兄さまが無邪気に笑った。
でもどこか笑顔、とは言いがたい歪んだ笑顔。子供の顔。我が儘な顔。



