そう思うとおれは恵まれてるんだと思う。

おれは生まれた時から兄さまがいてくれたから…、兄さまはどれだけ孤独だったんだろう?
想像も付かない。


「兄さま、そろそろお風呂に入りません?」
 

テレビを観ていたおれはお風呂のことを思い出して、隣で一緒にテレビを観ていた兄さまに声を掛ける。

デジタル時計に目を向ける兄さまは入るって頷いた。

「時間も八時を回ったし…、そろそろテメェの担任が電話してくる頃だから、風呂にでも入ってふけてるか」

「え、電話するって言ったんですか? 大道先生」

「そうは言ってたけどな。那智、風呂に入るぞ」

 
じゃあ、寝巻きの準備をしとこうかな。
 
  
お先にどうぞ、おれは兄さまに言った。

途端兄さまは不機嫌、「なんで?」って言われる。


……なんでって。


「おれが先でもいいですけど」

「なんで? 俺を置いて行くのか?」

「じゃあ兄さまがお先に」

「俺がなんで那智を置いて行かなきゃなんねぇんだ?」


「先は…」

「ヤダ」


「後も…」

「ヤダ」


「両方ともー…」

「ヤ・ダ」



「………」


「………」



いつもだったら先にお風呂に入ってくれるんだけど、今の兄さまはとっても我が儘だ。

先も嫌、後も嫌、じゃあいつ入るんだって話だけど、おれは兄さまの言いたいことが十二分に分かる。
 

ぶすくれている兄さまに、

「じゃあ一緒に」

ご機嫌を取りながら提案。

すると、

「おう」

兄さまは嬉しそうに返事した。