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(なんでおれ、兄さまを傷付けるような発言しちゃったんだろ)
やってしまった-。
おれはそう思わずにはいられない。
兄さまを傷付けるつもりは毛頭なかったんだけど恋愛話になって、おれ、ついつい兄さまの最大の禁句ワード“消える”を使ってしまった。
兄さまにとって最大の禁句なのに、
口にすればどうなるか予想もついてたのに、
心の傷を化膿を出させるだけなのに…、
嗚呼、軽率だった。
兄さまは普段、とても冷静で常におれを守ってくれる。
その姿は頼もしくも強い。
だけど心の均衡が崩れた時、兄さまはとても脆くなって弱々しい姿を見せる。
一度均衡が崩れると、それを戻すのに半日くらい時間が掛かる。
暴れたり、喚き声を上げたり、逆に塞ぎ込んだり…、
さっきみたいにおれに噛み付いて縋ってきたり。
兄さまはおれ以上に、両親から冷たい風を受けていた。
しかもおれの場合は兄さまがいた。
けど、兄さまはおれが生まれるまでひとりで日々を過ごしていた。
心の傷は兄さまの方が深い。
随分落ち着きは取り戻せたみたいだけど、まだ動揺と不安が胸を占めているのか、兄さまはいつもの兄さまじゃない。
さっきからずーっとおれに引っ付いて回ってる。
体を密着しないと落ち着かないみたいだ。
夕飯の仕度をしてる時も、食事をする時も、片付けする時も、兄さまはおれから離れない。
ピッタリくっ付いて回る。
さすがにトイレだけは勘弁してもらいたかったから、何度も説得してトイレ前で待ってもらった。
それ以外は大抵、おれにくっ付いてる。
傷付けた自覚あるから、おれは兄さまの好きにさせたし、安心させるように名前を呼んだり、手を握ったり、頭を撫でたり。
それだけで兄さまは嬉しそうに笑う。
子供のようには笑顔を零す。
愛情に飢餓してる兄さまはおれに甘えてくる。