スーッと白っぽい視界の向こうに映るのは、雪崩れた敷布団、見慣れた家巻き、Tシャツ、誰かの腕と胸部。
 

俺は縋ってる腕に爪を立てた。

その腕が誰の腕なのか、気が動転している俺でも今なら分かる。


だから爪を立てた。

だからこそ爪を立てた。
 

痕が残るくれぇに爪を立てて、引っ掻いて、また爪を立てて、

「ひとりはいやだ」

小さな体に縋る。


痛みに息を殺しながらも、小さな手が優しく頭を撫でてくれる。
 

「ずーっと一緒です。兄さま、ずっと…」

「離れたら許さねぇ…、離れるくれぇなら…、ひとりになるくれぇなら…、ひとりにするならっ、いっそ…俺と一緒に死んでくれ」


「―…はい。そう、兄さまが望むなら」

 
狂気に満ちた発言も、静かに受け止めてくれるそいつ。

相槌を打って俺を抱き締めてくれる。
 

ひとりじゃ得られなかったぬくもりが俺の涙腺を緩める。

「ふっ…」

苦しく涙交じりの吐息をついた俺はひとりだった頃を思い出して、思わずその体を抱き締め返した。


「こわいっ…、こわい、ひとりはこわい」


肩口に顔を埋めた俺は、次の瞬間その体に歯を立てた。

柔らかな肉体に沈む歯列たち。

咎めの声は無かった。


代わりに、


「ごめんなさい。兄さまを傷付けてしまって…、兄さまをひとりにはさせません」


優しい声が俺を愛しむ。

眩暈がするほどの温かな優しさに俺は酔いしれた。
 

悲鳴さえ上げていた俺の中の孤独感がその優しさによって溶け消えていく。



いっそ、優しさと一緒に二人で消えられたら。



歪んだ感情が俺を支配した―――…。


⇒03