―――…治樹? 俺の名前?



「ごめんなさい、治樹兄さま。

おれ、消えませんから、大丈夫ですから。
ごめんなさい、兄さまの心の傷を抉るような発言をして。

兄さまはひとりぼっちじゃないです。ふたりぼっちですよ」


ほら、ひとりじゃこんなこともできない。

真っ暗な視界の中、誰かに頭を抱き締められる。
嗚呼、俺、誰に抱き締められてるんだ。

ひとりじゃないんだ。

ひとりじゃない、ひとりぼっちじゃない、誰かと一緒。


あ、心臓の音が聞こえる。

俺の心臓の音じゃない。

誰かの心臓の音。



トクン…、


トクン…、


トクン―…。





心地良い…、心臓の音。


生きてる音。

俺も同じ音が体内に宿ってる。


暫く心臓の音を聞いて、俺、自分がやっと呼吸を乱してることに気付いた。

上手く呼吸ができねぇ。
苦しい。


顔を顰めてたら、


「ゆっくり息をして下さい」


優しい声がジーンと体に伝わってくる。
優しさとぬくもりが俺の体に浸透してきてみるみてぇ。


言葉に誘導されて、俺はゆっくり深呼吸をする。

呼吸が楽になってくると、ブラックアウトしてた視界が晴れてきた。