「(あんのクソアマァッ。
俺の後頭部に鞄は投げ付けてくるわっ、他人のクセに他人を庇うために俺に悪態付いてくるわ、弟を傷付けるわっ、サイッテーなのはどっちだ!

くそっ、女だからって甘く見てたが、今度ああいう言動起こしてみやがれ。一生後悔させてやるっ! 俺は女にも容赦しねぇタチだからな!)」


「兄さま…、お顔恐いですけど、どーしたんですか?」

 
パチクリと瞬きして俺を見つめてくる那智に、

「ちょーっとな」

俺は引き攣り笑いを浮かべた。

あの女、思い出すだけでも腸煮えくり返る。

でも那智の前じゃ、怒るに怒れないよな。

さっきのこと思い出して、また動揺させちまうのもヤだし。


……俺もナナシ女のこと、思い出しちまうし。


俺は適当にメニューを選ぶと、店員を呼んで二人分のメニューを注文した。

数分後、メニューが来て俺等は揃っていただきます。

「わぁ!」

感嘆の声を上げる那智は本当に嬉しそうな顔をしてパスタを食い始める。

俺はそれを見て微笑ましく思った。


外食が出来るようになったのも、かれこれ一年前の話。


それまで俺達は親に従順ぶってたから…、本当は俺が高校に上がる時に、奴等を脅して自由を手に入れようと思った。
 
でも高校じゃ、一人暮らしの許可を得られるかどうか不安だったんだ。

那智を連れてあの監獄から出る、それが俺達の夢だったしな。

確実に家から出るためにはそれなりの準備と時間を要する。


だから高校までは我慢して親に従ってた。


結構なまでに親のストレスのはけ口にされてたけど、そこは耐えに耐えた。

力で勝てる相手だと分かってても母親の暴力も甘んじて受けてたし、その恋人の罵声にも耐えてきたし。

那智もよく我慢してくれたと思う。

愚痴一つ零さず、俺の傍にいてくれた。


弟がいてくれたおかげで俺は強くなろうって思ったんだ。