×


那智お気に入りのパスタ店に連れて来た頃には、あいつも平常心と落ち着きをすっかり取り戻していた。

それどころか少し気持ちが浮ついてるみたいだ。

テーブルに付くや否や、そわそわとメニューを開く。

「兄さま、これ」

お気に入りメニューを指差してくる那智に、

「俺がまだ決まってねぇから」

微苦笑して俺もメニューを開く。
 
 
「兄さま、おれ…アイスクリームも食べたいです」

「んー? ゲッ、アイスクリームって…、そりゃパフェじゃねえか。てめぇ全部食いきれるのか?」
 
 
ジーッと那智がこっちを見つめてくる。いつまでも見つめてくる。

この状況のことわざを出すなら…、目は口ほどに物を言うだな。

黙って俺を見つめてくる那智の目が訴えてくる。


食べたい食べたい食べたい、一緒に食べよう食べましょうってな。


「にーさま」

「………」

「にーさま!」

 
「……。わーったわーったよ。ただしパフェの味は俺が決めさせろよな」
 

一緒に食べりゃいいんだろ、俺が折れると那智は満面の笑みを浮かべてきた。

ったくもう、俺と半分にしても食いきれねぇだろうに。

俺が半分以上平らげることになるんだぞ。

まあ、好きだからいいけどさ。
 

俺はチラッと那智を一瞥する。

メニューを眺めている那智は子供らしく笑顔を零していた。

さっきの騒動が嘘のようだ。

うん、やっぱこうじゃねえと。折角那智を喜ばせるために昼食食う約束したんだし。


にしてもあのナナシ女、思い出しただけでも腹が立つ。
 

弟を傷付けやがって…。

那智を傷付けてもいいのは、弟を守ってる俺だけだっつーの。