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(マジかよ…、30分内で終わらせるつもりなのに)
俺は軽く舌を鳴らす。
鉄道橋下に主犯と共犯を呼び出し、真実を追究、すべてを知った上で始末する予定でいた。
殺人を刑事達に暴露した今、さっさとチンピラ事件を明かして、ふたりぼっち世界を壊そうとした奴等に制裁を下す。
那智を傷付けようとした輩に、死よりも地獄な苦しみを味わわせてやる。
どうせ相手は腕っ節のねぇ大学生二人、高村彩加と佐藤優一の二人、俺ひとりで始末は十分だ。
ンなに手前の腕を過信しているわけじゃねぇが、不良と渡り合ってきた俺だからな。
鳥井が出るまでの幕じゃねえし…、喧嘩の腕もねぇ。足手纏いになりかねない。
だから鳥井には車に残ってもらって、後部席で安らかに眠っている那智を任せて(嫌だけどこの際仕方がねぇ)、ひとりで決着をつけに来た。
そしたらどうだ。
高村は根っからのストーカーだわ、優一に無様にもスタンガンでやられるわ、主犯と共犯の揉め事を目にするわ。
簡単には決着がつきそうにねぇじゃねえか。
こんなことなら鳥井を連れて来るんだった。後悔先に立たず、だな。
高村を刺した優一は、誰からも愛されそうな愛想の良い笑顔で主犯に謝罪した後、ゆっくりと俺の方を見てくる。
「やっちまった」高村を刺した罪悪を感じないのか、奴はケロッとした顔でまた一笑。
無垢過ぎる笑顔に、俺はゾッとした。
他人の笑顔に初めて恐怖を感じた瞬間でもあった。
脳裏に過ぎるのは“狂気”という二文字。
俺等も大概異常者だが、あいつもなっかなかの狂気を持っているようだ。
ある意味同類だな。
じゃあ同類だから大歓迎…、なんざ一抹も思わねぇよ。
くそっ、冗談じゃねえぞ…、久々に命の危機すら感じるじゃねえか。
この感覚は虐待以来だ。
恐怖だ、恐怖。
母親を殺る時よりも、多大な恐怖を感じるぞ。