× × ×



(マジかよ…、30分内で終わらせるつもりなのに)



俺は軽く舌を鳴らす。


鉄道橋下に主犯と共犯を呼び出し、真実を追究、すべてを知った上で始末する予定でいた。

殺人を刑事達に暴露した今、さっさとチンピラ事件を明かして、ふたりぼっち世界を壊そうとした奴等に制裁を下す。

那智を傷付けようとした輩に、死よりも地獄な苦しみを味わわせてやる。

どうせ相手は腕っ節のねぇ大学生二人、高村彩加と佐藤優一の二人、俺ひとりで始末は十分だ。

ンなに手前の腕を過信しているわけじゃねぇが、不良と渡り合ってきた俺だからな。

鳥井が出るまでの幕じゃねえし…、喧嘩の腕もねぇ。足手纏いになりかねない。


だから鳥井には車に残ってもらって、後部席で安らかに眠っている那智を任せて(嫌だけどこの際仕方がねぇ)、ひとりで決着をつけに来た。


そしたらどうだ。

高村は根っからのストーカーだわ、優一に無様にもスタンガンでやられるわ、主犯と共犯の揉め事を目にするわ。

簡単には決着がつきそうにねぇじゃねえか。

こんなことなら鳥井を連れて来るんだった。後悔先に立たず、だな。


高村を刺した優一は、誰からも愛されそうな愛想の良い笑顔で主犯に謝罪した後、ゆっくりと俺の方を見てくる。

「やっちまった」高村を刺した罪悪を感じないのか、奴はケロッとした顔でまた一笑。
無垢過ぎる笑顔に、俺はゾッとした。

他人の笑顔に初めて恐怖を感じた瞬間でもあった。
脳裏に過ぎるのは“狂気”という二文字。


俺等も大概異常者だが、あいつもなっかなかの狂気を持っているようだ。

ある意味同類だな。
じゃあ同類だから大歓迎…、なんざ一抹も思わねぇよ。


くそっ、冗談じゃねえぞ…、久々に命の危機すら感じるじゃねえか。


この感覚は虐待以来だ。
恐怖だ、恐怖。

母親を殺る時よりも、多大な恐怖を感じるぞ。