いつもの調子で話し掛ける優一は、まだ友達感覚なのだろう。

おどけ口調でスタンガンを宙に投げた。

夜空に向かって一回転するスタンガンは、また彼の手中におとなしくおさまる。

ガンを飛ばす治樹は、舌を鳴らして、どうにか上体を起こす。


「…てめぇ、まじヤッカイな、性格だな…」

「褒めるなって、照れるだろ!」

「そういうところが…、また…ヤッカイだ。阿呆」




「佐藤くん」




嫉妬を含んだ声が優一の名を呼ぶ。
自分を蚊帳の外に出して、愛しの彼を独り占めしないで欲しい。

軽く怒気を待とう彩加に、


「はいはいはいはい」

必要以上に返事をして治樹を見下ろした。



「急かすなってもう。
今すぐお仕事します。しますから。
ま、俺のこれからのお仕事は治樹じゃないんだけど。


高村―…、今までおっつー!」



軽い口調は夜風の中に消え、治樹の前に立っていた彼は颯爽と駆け、身構えていなかった彩加は瞠目、鉄道橋の上では電車が喧しく走り去る。



一震いした彩加は、視線を上げ「なんで?」子供のように目前の共犯を尋ねた。



確か約束はお金だったんじゃ、貴方はお金が欲しかったんじゃ。



ストーカーの問い掛けに、えへへっと無邪気に優一は笑声を漏らして素早く果物ナイフを彼女の腹部から抜き取った。

よろっと後退する彩加は、可愛らしいワンピースとカーディガンで着飾っている胴を見下ろす。

裂けた場所から鮮血が溢れ出ていた。


今日のために、この瞬間のために、めかしこんだ服もこれでは台無しである。