「ナナシ女、てめぇのせいで那智が動揺しちまっただろうが!」

「ちょ、ちょっと言っただけでしょ! 弱いんじゃない、その子!」


弱い?

その言葉に酷く冷静になる俺がいた。

弱いってなんだ。

てめぇが俺と、那智の、何を知ってるんだ?
 

「じゃあ、俺がフッたてめぇのダチも弱いってことになるんじゃねえの?」

「それとこれとは別でしょ!」


聞き捨てならないとナナシ女は闘争心をむき出しにしてくる。

けど、俺は冷静に返した。
 
 
「俺は単にそいつをフッた。それだけのこと。
てめぇ、俺の弟にちょっと言っただけなんだろ?
俺もそうだ、ちょっとそいつに言ってフッただけのこと」

「おかしいわよ!
あたし、その子のことは直接に悪くは言ってないし…、被害妄想激しいんじゃないの?」


「その言葉、そっくりそのまま返す。
そっちのダチこそ被害妄想激しいんじゃないか?
フラれたなら次の相手を探せばいいこと。

それにな、直接弟のことじゃなくても、てめぇのちょっと言った言葉は、那智にとっては傷付くこと極まりないんだよ。

同じだ。
てめぇと俺のしたことは」


俺達の間に青い火花が散った。

憤怒してる向こうに対し、俺もまた憤怒していた。
 
 
どんな理由であれ、弟を傷付けた奴は許せねぇ。

あいつはブラックリスト入り決定だ。



とにもかくにもこの女、いけ好かない。



けど今は…、あいつより弟だな。

心音を聞かせていた弟に声を掛け、ナナシ女に背を向けた後(その際睨んでやった)、俺は那智の手を引いて歩き出す。

ぎこちなく歩く那智は幾分落ち着きを取り戻していた。
 
力なく手を握ってくる那智に目を落として、俺は微笑した。