「―――…あーあ、おっちゃんの涙誘うありがた~いお小言。
若旦那ったらあっ気なく一蹴しちまって」
スツールから崩れ、冷たい床に倒れちまう益田を見下ろして口笛。
「やーれやれ」
一仕事終わった。
そう言うや否やスポーツバッグに重量感のある赤茶の煉瓦を仕舞う、そいつ。
チェリーボーイ会社に勤めるヘッポコ裏社会人、鳥井政志。
俺と那智を入院させた張本人。
那智が病室を抜けると同時にこいつが入ってきて、病室に設置されている専用浴室に姿を隠していた。
冷ややかな目で俺はそいつを見やりながら、「私服」頼んでおいた着替えを出すよう命令。
「わーってるわーってるって、少し待ってろ」
なーんて軽口叩く鳥井は、喪心している益田を抱えると専用浴室に姿を消す。
程なくして鳥井が戻って来た。
鳥井は手を叩きながら現状報告。
刑事を縛った上に浴室の扉を固定してきた。暫くは開かずの間となるだろう。
殺しても良かったけど、追々面倒になる上に金にならないから縛っただけにした。
頭部から血は流しているけど、ま、命に別状は無いだろう。おしまい。
淡々と報告した鳥井は、同じバッグから着替えを俺に投げ渡した。
闇に紛れやすい黒のジーパンと黒のワイシャツ、嫌味なのか赤いネクタイ付きだった。
ネクタイを締める必要性はあるのか?
(なんでネクタイだけ赤。全部黒で統一しろよ)
疑問を抱きながらも俺は素早く寝巻きを脱いで、袖を通した。
頭に巻かれた包帯を無造作に取っ払う。
「取っても大丈夫なのか?」白々しい質問に、
「てめぇ」俺は唸り声を上げながら赤ネクタイを締める。



