「今日…、ちょっと…兄さま、パニクって…」
暴れに暴れ、疲れて眠ってしまってる、那智はおどおどと説明。
虐待のことを思い出してしまったのだと言うのだ。
兄は自分以上に心の傷が深いから、パニクる事が多い、と那智はションボリと肩を落とした。
それで自分はずっと兄の傍にいたのだけれど、喉が渇いて此処にやって来たのだという。
成る程。
納得した益田は那智に奢ってやると笑い、何が良いかと自販機を指した。
ココアが飲みたい。
少年がそう言ったため、益田はボタンを押してホットココアを選ぶ。
熱々のココアを那智に手渡せば、「ぁ…ぃがと」蚊の鳴くような声で礼を告げてきた。
どことなく嬉しそうにカップを持ち、休憩所に設置されている長椅子に腰掛けた。
早く飲んで兄さまのところに帰ろう、ココアの甘味に綻びながら那智は少しずつカップを傾ける。
こうした様子は容疑者も何も欠片もない。
微笑ましい光景に目尻を下げ、益田と柴木もカップ珈琲を購入すると、那智の両サイドに腰掛け、共に珈琲を啜る。
「坊主、美味そうに飲むなぁ。ココア好きか?」
「うん…」
「甘いもの好きらしいものね」
「すきぃ…」
ニコニコッとココアを飲む那智だったが、「兄さまにも飲ませてあげたい」兄が此処にいないことにションボリ。
肩を落として物寂しそうに足を軽くばたつかせた。
その内、「おれのせぃ…です…」涙声になった。
今日、兄がパニクッたのは自分のせいだと吐露。
何かあったのか、兄弟喧嘩でもしたのか、優しく柴木が尋ねる。
シュンッと身を小さくして首を横に振る那智に、「言えば楽になるかもしれねぇぞ」益田が軽く少年の背中を叩いて言う。
暫し口を閉ざしていた那智だったが、「刑事さん…」小声の小声で名を紡ぎ、クシャリと顔を顰めた。
「あのですね…、兄さま…、おれのせいで…無理してるんです…。
兄さま、ずっと…、おれと…一緒にいようと…、おれのしたこと…、隠してくれてて。
おれ達…、精神的に余裕のある人間じゃないので…、切迫したら…、昔のこと思い出してしまいがちで…、気が動転…するんです…」



