というかファミレスから先のことはおれ、憶えてないんだよね。
兄さまに事情は聴いたけど、チンピラの『チ』も憶えてない。グースカグースカ寝てたんだって、おれ。
能天気だよな。
襲われているのにグースカ寝てるなんて。
「まあ、チンピラの件は証拠があるから。その内、捕まるだろ」
「そ…、そうだといいね」
目を泳がせて困り果てている高村さんを庇うように、「そういえば」福島さんが話題を変えてきた。
「下川。あんた、退院の目処は立ってるの? 大学はどうするのよ」
「目処もクソもねぇ。大学なんざこの調子じゃ通えるわけねぇだろうが。休学、もしくは退学だろ。フツーに考えて」
大学の存在自体すっかり忘れていた、兄さまは不機嫌に答えて溜息。
通えるかどうかも分からない、世間体を騒がせている事件になっているようだから。母親の殺人容疑も掛かってるんだし。
嗚呼、普通の生活なんてもう送れないかもしれない。
兄さまはポツリと独り言。
宙を見つめて、思案に耽っているみたいだ。
おれは兄さまの寝巻きの裾を掴んで、「ひとりぼっちじゃないですよ?」そっと見上げる。
極上の微笑みを向けてくる兄さまは、「ん」おれの頭を撫でてずっと一緒だと言ってきてくれる。
兄さまが笑ってくれている、それだけでおれ、幸せだった。
「相変わらずブラコンなのね。下川くん」
安河内さんが兄さまの微笑に苦笑い。
すると兄さま、一変してシニカルに笑って見せた。
「家族ってのは、身内をアイするものだろ?
だから俺もアイしてやるんだ。片割れの弟を。
俺は那智の親代わり。ずっと那智を育ててきた。
んでもって俺は那智の兄貴。ずっと那智の面倒を看てきた。
んでもって俺は那智の最愛人。
もう那智も俺も、家族しかアイせない。アイし方を知らない。
別のアイを知ったら、俺はこいつを容赦なく殺すんだろうな」
兄さまの狂気じみた台詞は宙ぶらりん。
呆気に取られている皆の心にまでは届かなかったみたい。
でもおれにはちゃんと届いたから、おれの兄さま(最愛人)。



