だけどやっぱりひとりになる時は訪れる。
例えば、事情聴取の時もそうだし、お手洗いの時もそうだ。
おれがひとりでお手洗いに行ったら、いつの間にか益田さんが後からついて来て、手洗い場で声を掛けてくる。
その度、おれは身を小さくする。
上手く喋れないおれに話し掛けてくる益田さんは、事件のことを聞き出したいのか、とても積極的。
兄さまはなるべく事件のことを仄めかして欲しいって頼んできたから、おれはより容疑が深まるような態度を取ろうと演技をする。
事件のことを全部話したら、容疑者じゃなくて犯罪人に確定しちゃうから、どうにかギリギリのラインを保って演技。
あまり演技は上手くないけれど、兄さまのためなら何だって演じる。
演じるその演技の中に本心を交えているから、下手くそでも演技はやりやすい。
罪を犯したことを対する恐怖はまだ拭えてないし、兄さまと離れる恐怖心も根強く息衝いている。
表に出せば刑事の益田さんは食らい付いてきてくれる。
「坊主、何かしたんじゃないか」
毎度のことながら益田さんはおれと視線を合わせて、悪い嘘はいつかはばれると懇切丁寧に教えてくれる。
俯くおれは兄さまに嫌われるからと、小声で突っ返しても、益田はしつこい。
おれの両肩に手を置いて、
「何かしたとしても、坊主はまだ何度だってやり直せるんだぞ」
真実を暴こうと、おれに真相を語らせようとする。
毎度のやり取り。
反論する勇気も無くて、ただ俯きモジモジするおれを、帰りが遅いからって様子を見に来てくれた兄さまが助けてくれるまで延々繰り返す。
「那智に近付くな。那智も俺から離れるな」
助けてくれる兄さまは、過剰なまでに益田さんに警戒心を飛ばすもんだから、おれ達の疑いは強まる一方。
そりゃ傍から見れば、兄さまが事件を公言させないようおれを束縛しているように見えるだろうしさ。
どんどんおれ達の身動きが取り難くなるのに…、兄さまは何を狙ってるんだろうか。
きっと何か狙ってるには違いないんだろうけど。



