―――…。
「那智、もういいぞ。刑事達は行った」
冷然とおれを見据えていた兄さまが、フッと綻んで頭を撫でてくる。
うん、おれは頷いて兄さまの膝から下りる。隣に腰掛けた後、擦り寄った。
さっきのは半分演技、半分本気の戯曲だった。
兄さまに頼まれたから、おれは刑事さん達の前で本心と事件の解決を仄めかす発言、態度を取った。
あんなことをすれば疑いが深まることは間違いない。
それはおれだって理解してるけど、兄さまがそうして欲しいって頼んできた。
兄さまがそう望んだならおれは従うまで。
兄さまのいない空間は怖くて怖くて仕方が無かったけど、他人とおれだけなんて恐怖で一杯だったけど、兄さまが望んだから。
ちなみにさっきのやり取り、兄さまは扉向こうで見ていたらしい。
お手洗いに行ったのも本当で、飲み物を買いに行ったのも本当、用事を済ませてこっちに戻って来たそうだ。
きっと頭の良い兄さまのことだ、何か考えがあるんだろうなぁ。
おれは頭が悪いから…、兄さまの指示に従うだけ、そして信じるだけ。
兄さまには何か考えがある。
座っていたおれだけど、何となく疲労が押し寄せて、兄さまの隣で寝転ぶ。
体を丸くするおれの頭に手を置いて、「眠いか?」優しい声音で囁いてくる。
安心する子守唄のようだ。
ううん、おれは眠くない意思を伝えて兄さまの体に擦り寄った。
「疲れちゃっただけです。
他人と喋る事がこんなに疲労することだなんて…、少し前までは大丈夫だったのに」
「―…、怪我してるからだろ。深く考えるな。那智は俺の傍にいることだけ考えとけ」
間を置く兄さまの台詞に、何やら意味深が含まれてる気がしたけど、おれは気にしないことにした。
だって兄さまが深く考えるなって言ったし。



