「きょーだい…、のお話だから…好きぃ…」


納得。

『ヘンゼルとグレーテル』は兄妹の童話、親近感を抱くのだろう。

好きなのだとぎこちなく笑う那智に、気を良くしようと益田が「お前等みたいだな」仲の良さを褒める。

すると那智は少しだけ気を良くしたのか、うん、また頷いて「にーさまとおれ」絵本を手に取って綻ぶ。

しかし顔を曇らせて、絵本を捲る。

 
「この兄妹は…、ハッピーエンドですけど…、おれ達は…、ハッピーエンドなるのか…、おれ…、悪い子ですし」


意味深な台詞に柴木と益田は食らい付いた。

何か後ろめたさを抱いているらしい。
絵本を眺める那智に、「どうして悪い子なの」柴木が問い掛ける。

口を閉ざす那智は自分の右の手を見つめ、淀んだ空気を放つ。

「だって…」何か言おうとしたが、首を振り何でもないと目を伏せた。
 
 
「坊主、兄ちゃんには黙ってやるか何か言ってみな。言ってみりゃスッキリするかもしれねぇだろ?」

「…でも…、他人は安易に信じちゃいけない…って、兄さまに」
 
 
だから喋らない。
 
那智は二人に顔を背けた。
喋っちゃいけないんだ、自分に言い聞かせているよう。

どうやら兄はしっかりと弟を教育しているらしい。口が非常に堅い。

しかし弟のこの態度、事件解決の糸口となるかもしれない。
二人は何度も言う。兄には内緒にしておくから話みないか、と。

絶対に約束する。
告げれば、「刑事さん嘘つきですもん…」小声で言われてしまった。


「おかーさん、死んでないですもん…。おれのお母さん、兄さまですし…、刑事さん、死んだ言いましたし…」

「そりゃ悪かったな坊主。兄ちゃんは坊主の大事な母ちゃんだな」

「はい…」

「いい母ちゃんだな。どんな母ちゃんだ?」


すると、那智は気持ちを持ち直したのか、

「優しくて。アッタカくて。ギュってしてくれて」


仮母親の長所を次々に述べてくる。

大好きなオカアサンなのだと、那智は柔和に綻んで見せた。

だからずっと一緒にいたい、ずっと。
那智は願いを口にし、暫し間を置いた後、此方に目を向けて尋ねてきた。