× × ×
 
 

「演技なのか、はたまた素なのか、まったく見分ける事が出来ない容疑者というのも希少です。益田さん」



ゴトン。

自販機のボタンを押すと無愛想な音と共に無糖の缶珈琲が落ちてきた。

取り出し、蓋を開けながら柴木は上司に重々しく吐露する。

先に微糖缶珈琲を頂戴していた益田は、「曲者だな」舌を鳴らして太い眉をギュッと寄せる。


ただ今、刑事二人は病院休憩所の長椅子に揃って腰掛け、喉を潤しているところだった。


病院に理由は容疑者に事情聴取、並びに兄弟の素性を暴いてやるため。

二人はあの兄弟が犯人だと睨んでいた。


殆どこれは確信。

長年の刑事の勘が兄弟を犯人だと勘付かせていた。


雰囲気だ、奴等の雰囲気がそう臭わせている。

過去を振り返ってみれば、彼等には虐待という明確な動機付けもある。


しかし物的証拠は全焼した家からは皆無、目撃情報も以下同文。
周囲の聴取も以下同文。

兄弟が犯人だと言わせる物が一切出てきていない。

また、揺すりを掛けても向こうがまったく尻尾を出さない。

わざと詰問して此方が演技をしてみても(手帳の一件)、逆に境遇に同情し気持ちを煽ってみても無駄なこと。

事情聴取の時は兄弟揃って絶対にお互いから離れようとせず。


どうにか二人を引き離して事情を聴きだそうとすれば、


「那智を奪った奴等と話す気なんてねぇ」兄はかたく口を閉ざすし(時に憤怒し暴れる始末)、

「他人は怖いです…」弟は身を震わせてしまい(時に泣き出す始末)、


事情聴取どころではなかった。

それは演技ではなく素だろう。
同室にいた専門医が見て疑わなかったほどなのだから。

何度かカウセリングをした梅林は彼等の様子を見てこう指摘する。
兄弟の依存度は極めて高く、裏を返せば虐待の壮絶さを物語っている。