「ごめんなさい、私が手帳を忘れたものだから」
柴木は枕元に置いてある手帳を取って掲げてくる。
フン、一瞥することなく俺は鼻を鳴らして早く出て行くように強要した。
じゃないと続きが出来ない、不貞腐れる俺は那智の脇に手を添えながら言う。
ビクリと体を震わす那智はぎこちなく俺を見上げてきた。
「に、兄さま…それだけは…やぁ…やぁですから」
ちなみに柴木と梅林は俺が那智に何をしようとしているのか、まったくもって分かっていない。
俺の手は毛布の中だから。
「んー? 那智、好きだろ?」
「す、好きじゃないです! それだけっ、あ、も、そこ触らないで下さいっ!」
脇を擦ってるだけだろ。
まあ、苛めがいあるけどな。
「那智、もっと色っぽい声出せって。此処、好きだろ?」
「やぁ…、そこは好きじゃないですぅ…」
くすぐったさに身悶える那智。
ほんっと脇は弱いもんな、那智って。
で、女性群は勘違いを起こして引き攣り笑い。
梅林が素早く俺にやめるよう命令してくる。
「こら治樹くん。そういうイカガワシイ真似は病院では禁止よ。あんまり我が儘やると、那智くんと病室を別個にしてもらうわ」
「他人の指図なんか受けねぇ。別個にしてもらうくれぇなら退院する」
見せ付けるように俺は擽りをやめて、那智を抱き締めた後、細く笑ってみせる。
少しでも異常者に見えるように。
「疑いを掛けるのは大いに結構。
だが刑事さん、俺の弟を奪うことは許さない。
那智は俺から離れることなんて許さない。
那智はずっと俺の。
ずーっと…、ずーっと…、那智がいれば何にもイラナイ。
監獄にだって入ってやる」
俺を観察するような眼がやや怯みを見せている。
それに微笑し、俺は那智を抱き締め続けた。
体張ってる演技のおかげで、今のところ、俺等に優勢な状況下にあるようだ。
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