すーっと直で背中をなぞりながら、俺は那智の言葉に耳を傾ける。
「嘘ついてます」那智はお母さんは死んでいないと繰り返す。


「だって…、おれのおかーさんは兄さまですもん。
 
おれ、知ってるんですよ。
本当のお母さんっていうのは…、いつも頼り甲斐があって、守ってくれて、優しくて、ギュってしてくれる。良い匂いがする。アッタカイ人。

兄さま、いつもおれのおかーさんでした。
兄さま、おれのためにご飯作ってくれて…、叩かないし、怒鳴らないし、褒めてくれるし。

おとーさんも兄さま、おかーさんも兄さま…、にーさまも兄さま。
だから死んでないです。死んでないんです」


「那智」

「刑事さんは、嘘をついてます」


「おれのおかーさんは此処にいますもん。
刑事さんは嘘をついてます。
おかーさんは此処にいます。死んでません。此処にいます。

ね、おかーさん? おれのおかーさんでしょ?」


愛しげに俺の頬に触れてくる那智に、「ん」俺は返事して抱き締めてやる。

お母さんと連呼する那智に、俺は何度も相槌を打った。
最後にはまた兄さまと呼んで、抱き返してくる。


その縋ってくる小さな手が凄く愛しいよ…、那智。



コンコン―。



病室をノックされて俺等は我に返る。
顔を上げれば、気まずそうに俺等に目を背けながら歩み寄って来る梅林と柴木。

梅林は俺等に、「病院でイカガワシイ行為はやめようね」注意して那智の寝巻きを整えるよう指示。

ああ、そういえば、那智、すげぇ寝巻きが肌蹴てらぁ。


「見るなよ。那智の肌を見ていいのは俺だけだ」


弟を抱き込んで唸り声を上げれば、「ごめんね」と梅林、「取らないから」と柴木。

けど俺はツーンとそっぽ向いて、「邪魔された」ガキのようにぶすくれて那智を抱き込んだまま寝転ぶ。
 

「うぅう重いです…、にいざま」


ついでに苦しい、俺の下でもがく那智を無視して、毛布を被る。

重い重いと足掻く那智を余所に、俺は何の用だと二人に素っ気無く問いかける。