これ以上刑事の相手も精神科医の相手もする気になれなかった俺は(だって気ダルかった)、那智と下手な猿芝居をした。
俺等にとって違和感ありありな芝居でも向こうは騙されてくれる。
どんだけ俺等がそういう“おかしな目”で見られるのか分かるな。
おかげで助かった。
あんま探りを入れられても、今後の行動がやり難いしな。
まあ、だからって…、揺すりや探りを入れられても、俺は勿論、那智も反応すらしない。
那智はもう俺の言葉しか反応しない。
心に受け止められない。
俺という兄の存在に絶対服従な精神を持ってしまっている。
だから母親の死を聞いても、刑事の詰問されても動じることのなかった。
自分が“何”をしたのか分かっていながらも、どこ吹くで飴をしゃぶっていた。
俺の弟は既にもう、感情の一つが欠如し始めている。
ぎりぎりまで保っていた正常の歯車がついに狂ったんだろう。
母親との一件以来、那智は俺の言葉を今まで以上に素直に聞くようになった。
対して他人の言葉に耳は貸しても、心で受け止めなくなっている。
俺の言うこと成すことすべてが全部正しいんだって思うようになった。
ま、だからって、極端な例を出せば、俺が赤色のトマトを黒色だって言っても、そりゃ正しいとは思わないだろ。
那智もそこまで落ちぶれちゃねえ。
感情の一つが欠如したって、ある程度の状況判断は出来る。
けど、物事を判断する基準は全部俺中心に塗り替えられちまった。
今まで以上に那智は俺基準で物事を考えたり、判断したり、物の見方をしたり―…、那智は前までの那智じゃなくなった。
善し悪し関係なく純粋すぎる那智の性格が、そういう事態を引き起こしちまったんだ。
それは那智にとって不幸、俺にとって幸いなこと。
今の那智は前の那智以上に好きだ。
だって他人の言葉に惑わされる可能性が少なくなったんだから。
「那智、いい子だな。
よく他人の言葉に惑わされなかった。偉い子だ」
弟にしか聞こえないよう、小声で那智に囁く。
「う?」首を傾げる那智は、何を言っているんだとばかりに破顔。
俺等にとって違和感ありありな芝居でも向こうは騙されてくれる。
どんだけ俺等がそういう“おかしな目”で見られるのか分かるな。
おかげで助かった。
あんま探りを入れられても、今後の行動がやり難いしな。
まあ、だからって…、揺すりや探りを入れられても、俺は勿論、那智も反応すらしない。
那智はもう俺の言葉しか反応しない。
心に受け止められない。
俺という兄の存在に絶対服従な精神を持ってしまっている。
だから母親の死を聞いても、刑事の詰問されても動じることのなかった。
自分が“何”をしたのか分かっていながらも、どこ吹くで飴をしゃぶっていた。
俺の弟は既にもう、感情の一つが欠如し始めている。
ぎりぎりまで保っていた正常の歯車がついに狂ったんだろう。
母親との一件以来、那智は俺の言葉を今まで以上に素直に聞くようになった。
対して他人の言葉に耳は貸しても、心で受け止めなくなっている。
俺の言うこと成すことすべてが全部正しいんだって思うようになった。
ま、だからって、極端な例を出せば、俺が赤色のトマトを黒色だって言っても、そりゃ正しいとは思わないだろ。
那智もそこまで落ちぶれちゃねえ。
感情の一つが欠如したって、ある程度の状況判断は出来る。
けど、物事を判断する基準は全部俺中心に塗り替えられちまった。
今まで以上に那智は俺基準で物事を考えたり、判断したり、物の見方をしたり―…、那智は前までの那智じゃなくなった。
善し悪し関係なく純粋すぎる那智の性格が、そういう事態を引き起こしちまったんだ。
それは那智にとって不幸、俺にとって幸いなこと。
今の那智は前の那智以上に好きだ。
だって他人の言葉に惑わされる可能性が少なくなったんだから。
「那智、いい子だな。
よく他人の言葉に惑わされなかった。偉い子だ」
弟にしか聞こえないよう、小声で那智に囁く。
「う?」首を傾げる那智は、何を言っているんだとばかりに破顔。



