はぁーあ…、ほんとにめんどくせぇ奴。
俺は肩を竦めて歩みを再開する。
直ぐにまた足が止まった。
一難去ってまた一難、今度はさっき俺に文句垂れてた女が俺の前で腕組んで仁王立ち。
「あ、さっきの奴」
引き摺られている優一がそう言うもんだから、興味を抱いたらしく、足を止めてこっちを見てくる。
おいおいおい、俺は急いでるんだ。
那智が正門で待ってるっつーの。
「何か用か? ナナシ女」
名前も知らないから、俺は一応、ナナシで名前を読んでやる。
カチンきたらしく、ナナシ女は俺を思い切り睨んできた。
「白々しい! 下川っつったわね? あんた、彩加に謝りなさいよ!
あの子、傷心抱いて今日、学校来てないんだから!
あんたが謝るって言うまで、あたし、此処を退かないから!」
「ナナシがどうこう言っても俺の気は変わらねぇ。謝る気も無い」
「だっれがナナシよ!」
「俺、ナナシ女の名前知らねぇし」
あ、ナナシ女の怒りのボルテージがまた上がってるな。
整った眉が大きくつりあがってる上に、口端が痙攣してる。
フン、ナナシ女は鼻を鳴らして俺にそっぽ向く。
「あんたに教える義理はないわよ!」
「じゃあ俺も、てめぇに言われる筋合いはねぇ。
ダチがどうこう言ってるが、てめぇと俺は他人で初対面、無関係。接触したこともねぇ奴に言われても、気分が悪くなるだけだ」
「あぁあああんたっ、マジでむかつく!
こんなむかつく奴、見たことも聞いたことも存じ上げたことも無いわよ!」
「俺も貴方のような名も名乗らない無礼者、見たこともございません。失・せ・ろ」
俺とナナシ女のやり取りに、
「うわぁー…下川、強ぇ」
「ああやって高校時代も女子を敵にしていったんだ。
治樹の奴…、容赦ないからな」
傍観者に回っている浩司と優一が変に感心してきた。
そりゃ、どーでもいいが、この女、しつけぇんだけど。
ちっとも退こうとしない女に苛々してると、
「朱美(あけみ)!」
向こうから女が駆け寄って来た。ナナシ女の仲間らしい。



