「マスコミにだけは嗅ぎ付かれないようにしねぇとな。
あいつ等、面白がってすぐ潜入取材してきやがる。
今だって兄弟の発見が話題になってるしな。
虐待のことも…、向こうはどっからか嗅ぎ付けてお茶の間に流してやがるし。
ったく、デリケートな話題だっつーのに…、少しはそっとしとけっつーんだ」
「ほんとですね。益田さん」
へー、ニュースにねぇ。
どうやら名前は出てないようだけど、俺等兄弟…、話題になってるのか。
大層偉くなったな俺等も。
ま、そんなことよりも…、気持ちが落ち着いたおかげで、記憶もはっきりとしてきた。
おぼろげだった記憶がはっきりと。
さーてと、鳥井のことは置いておいて、まずはどうしようかな。
取り敢えず装ってみるか、周囲が思うような患者さんに。
いやいつもどおり振舞えば良い。
それだけで、周囲は俺等を患者と見るだろうから。
「俺等を理解できる奴等は誰もいないんだ。な? 那智」
眠っている那智に微笑み、大人に対しては細く笑みを浮かべた後、俺は那智の体を抱えなおして病室を出た。
話し込んでいた大人達が俺に気付き、梅林が駆け足で近寄ってくる。
「何処に行くの?」梅林の問い掛けに、
「部屋に戻る」俺は淡々と答える。
「那智見つかったし、疲れたから部屋に戻る」
「那智くんを連れて? まだ目が覚めてないみたいだけど」
ニコッと微笑んでくる梅林に俺は一笑して見せた。
「だって俺のだから、傍に置いておかないと。大切な物は傍に置くのが常識だろ?」
梅林は何処となく困ったように笑い、向こうにいる刑事達は憐れむように俺を見つめていた。
それを見た俺はより一層笑ってみせる。
ほら、周囲は俺を患者と見た。
周囲は俺を理解することは出来ない。
俺を理解できるのは、眠りに就いている弟だけだ。



