「那智…、こんなところにいたのか。すっげぇ探した。
ダメだろ、兄さまの傍を離れちゃ」
眠っている那智の頭を撫でて、いつまでも俺は片割れを抱き締め続ける。
二日間、離れていた温もりを貪るように、ずっとずっとずーっと那智を抱き締め続けていた。
ピクリ。
那智が微かに反応をしてくるけど、俺は構わずポンポンと背中を叩いて名前を呼ぶ。
壊れた人形のように名前を呼び続けていた。
と、梅林を含む刑事達がそっと病室を退散しようとしていることに気付いた。
流し目で見る俺は那智を抱き締めて名前を呼びながらも、向こうに集中。
頃合を見計らって那智を抱えたまま移動、少しだけ扉を開けて廊下を覗き込んでみる。
病院が常日頃から静寂で助かった。
声がよく聞こえてくる。
「参ったなぁ。思った以上に厄介だぞ…、兄弟の尋問。
噂には聞いてたが、まさかあそこまでとはなぁ。切ねぇ世の中だ」
憐情の念を口にする益田に、「どうしましょう」柴木が困惑したように今後の行動を上司に尋ねていた。
まずは兄弟の気を落ち着かせることだと梅林。
「無理に二人を引き離したりしないことです。
あの様子からじゃ、兄弟共々依存度が非常に高いでしょうから。
二人は磁石のような関係になっているんです。
引き離されると、より距離を埋めようとお互いを求め合う。
それに此方が手を加えれば、一層求め合う。悪循環です。
またあの二人の生き方、関係、行為を否定するのもマイナスでしょうね。
事情を聴く限り、兄弟はそうするしか術がなかったのでしょうから。
言動にはくれぐれも気を付けて下さい」
―――…まーるで患者扱いだな。
いや、患者に見えるんだろうけど、それにしたってなぁ…。
言動にはくれぐれも気を付けて下さいって、そんなに俺等は異質か。



