直ぐに柴木に落ち着くよう言われ、益田に体を押さえられたけど、俺は嫌だと喚き叫んで暴れた。
暴れる度に体が異様なまでに痛みと熱を帯びるけど、構わず俺は暴れて、自分の体を引っ掻き回して、弟の名前を連呼した。
両爪の間に微かな垢と軽く剥け始めた皮膚が食い込む。
ミミズ腫れが走る肉体。言い知れぬ恐怖が襲い、それに怖じて弟の名前を呼んで奇声を上げる俺。
ガクガクと体が震える。
那智、那智、那智っ、なんで俺の傍にいないんだyっ、兄さmっ、ひとりにするなy!
戦慄く唇で弟を呼ぶ俺の奇声に刑事達は落ち着かせようと躍起になり、片方がナースコール。
騒ぎに看護師や医者が飛び込んできた。
既に視界がブラックアウトし掛けていた俺には、その姿が薄らボンヤリとしか映らない。
名前を呼ばれる、けどそれは愛しい声じゃないから拒絶。
体に触れられる、けどそれは愛した温もりじゃないから払う。
落ち着くよう気遣われる、けどそれは他人の気遣いだから無意味。
不快感しか湧いてこない。
拭うように俺は何かに噛み付く。
それが自分の腕だと気付くのに暫く時間を要した。
段々と呼吸が苦しくなって、俺は身悶える。
それでも俺は孤独な闇の中、意識が切れるまで弟を呼び、奇声を上げ、暴れ続けていた。
プッツリと意識が切れてしまうまで。
んで、
すっげぇ情けない話だが、このやり取りは俺が目を覚めては繰り返された。
絶対安静を強いられていた俺だけど、目が覚めてはベッドから下りて病室を抜け出そうとする。
その度に見つかって奇声に暴走に自虐行為、目が覚める度、体に傷が増えていった。
大概で医者達も疲弊したのか、ついに策に出た。
自虐行為に走らないよう布状の拘束具で両手を固定。
見るからに両手を骨折したような姿だが…、これじゃまんま犯罪者だ。
目が覚めて度肝を抜いた、マジで。



