(旧)ふたりぼっち兄弟【BL寄り】

語り部の話を聞いていた朱美は思う。

下川治樹は異常者ではなく、道を単に踏み外した正常者なんだと。


彼の弟も然り。


兄弟揃って正常者でありながら、敢えて普通の道に背を向けてしまったのだ。
本当に母親を殺してしまったのか、行方不明になっている彼等の安否はどうなのか、真偽は分からないが…。

彼等の過去を詳しくは知らないし、知っても同情しかできないだろうけれど、あの二人は間違えてしまったのだ。進むべき道を。

仮に彼等が虐待なんぞされていなかったら、ひん曲がった世界を作り出すことは無かっただろうに。
憐れみを覚えて仕方が無い。


「下川ってさぁ、正しいことを正しいって思うのが恐いんだろうな。

正常になるのを恐れてるって言うかさ…。
ほんとは正常になれる道だってあるのに、自分から背を向けてる」


浩司の言葉に同感だと朱美は相槌を打った。
自分達の世界を作り出している彼等は、培ってきた世界を壊されないよう必死に生きているのだ。


閉鎖的な世界の向こうが恐怖だから。

閉鎖的な世界の向こうが異常だから。

閉鎖的な世界の向こうが未知だから。


治樹はかつて朱美にこう言ったことがある。


『てめぇは俺と違って正常者。俺は異常者。
俺は他人を思いやることも何もできねぇんだよ。そこのところが欠如しちまってるから。

俺は手前のためなら他人の命さえ奪う』


壊されたくない世界を守る、異常者。


哀しき生き物だけれど、他人を思いやることができないわけではないと思う。


本当に他人を思いやれなかったら弟に対して、あれほど優しく笑えたりしないし、気遣えたりもしない。


優一のように慕うような人物も出てこない。


思いやれないのではない、できないのでもない。

自分から目を背け、兄弟だけの世界という名の殻に閉じ篭ってしまっているのだ。