優一と浩司が感心したように話を聞いている。
俺は記憶のページを捲った。
そういえば、そういう好き物がいたな。
俺の事が好きうんぬん言う…、告白してきた変な女。
「興味ない」素っ気無く返しただけだが、それの何が悪いんだ?
「気持ちもねぇのに、曖昧に付き合うよりかはマシだろ」
「断り方に問題があるって言ってるの!
男ならもっと女の気持ちを考えてよ!
彩加に謝って! 真摯な気持ちで謝って!」
「謝る要素、俺には分からねぇ」
「あんたッ、情はないわけ!」
「てめぇがない思ったらないんじゃね? 俺に関わるな」
凄みを利かせてくる女にガンを飛ばす。
向こうもガンを飛ばしてきた。
「やたらめったら似非正義感に溢れた奴だな」
率直に女に言ってやれば、
「死ね!」
そう言って俺の顔に張り手をかまそうとする。
俺は右手で受け止めて、
「暴力反対」
素っ気無く返した。
向こうの怒りのボルテージは最高潮に達したみてぇだ。
「絶対謝らすから」
机を一蹴り、文庫を俺に投げて席に戻って行く。
なんだ、あの女。
最後の最後まで名前、名乗らなかったな。
「わぁー…、なんか高校時代にもこういう光景を見たけど、治樹、お前、肝据わり過ぎだぞ。
女子にあんなこと言うなんてさ。
相変わらず、女子を敵に回すの上手いな」
優一は変に感心してきやがった。
「高校もそうだったのかよ」
浩司がスゲーっと口笛を吹いてくる。
俺は二人の会話にさえ興味がなかった。
返された文庫を開いて目に落とす。
あ、そうだ。
今日は那智に何か好きな物でも買ってやろうかな。
バイトの給料日だし…、飯食った帰りに那智と買い物に行こう。
あいつの喜ぶが見たい。
あいつは笑ってる顔が一番似合う。
あいつと一緒に今日も笑い合いたい。
俺は文庫の文面に目を通しながら、人知れず表情を崩す。
弟のことを考えるだけで心が弾んだ。



