「治樹に何かあったんですか!」
声音を張る優一は、益田に詰め寄る。
落ち着くよう宥める益田は間を置いて事情を説明。
曰く、彼の住居にしている一室が全焼、兄弟揃って数日前から行方不明だと言うのだ。
「そ…、そんな」
動揺を見せたのは彩加だった。
ガクガクと震える彩加は青褪めた様子で、両手を握り込む。
どんなに冷たくされても彼女の思い人、下川治樹の行方不明に愕然と絶句の両方が彼女を襲っているようだ。
女刑事柴木が皆の同様を宥めつつ、彼の人柄等を質問してくる。
どんなことでもいいから教えて欲しい。
仕事モードに入る柴木に、皆が皆、顔を合わせてダンマリ。
どういう人柄だと言われても…、
奴は性格難だったとしか言いようが。
「最近、下川は大学に来てなかったですしね…」
浩司の言葉に、「具体的には?」柴木が掘り下げてきた。
うーんと唸り声を上げる浩司は、二、三週間前だっけと優一に投げ掛ける。
それくらいだったような、優一は曖昧に返答。
「治樹は確かに性格に難があるけど、良い奴ですよ。俺、自信持って言えます。
そりゃ…、ちょっと人に恨みを抱かれるような言動は起こしてたみたいだけど…、俺、アイツとは好きでつるんでましたし」
「例えばどのような言動を?」
柴木の問いに、
「人の気持ちを考える事が出来ない奴みたいなんです。
相手の気持ちに気付かず、傷付けてしまうといいますか…、他人に興味が無いといいますか。
どうも…、家庭に事情を抱えた奴みたいで。
だけど下川、弟に対してだけは凄く優しい奴でした。
弟に一度だけお会いしたことあるんですが、その時は凄く優しかったですよ、彼」
浩司が淡々と答える。