「にーさま…、おれがします」



ライターを握って佇んでいる俺に声を掛けてくる那智。
泣いている俺は無様だけど、気遣ってくる那智もまた涙を流していた。


兄弟揃って泣き虫らしい。


「貸して下さい」


手を差し出す那智に、俺は首を横に振る。

那智はもう十二分にしてくれた。



今度は俺の番だ。



涙を拭った後、点したライターを向こうに放り投げ、俺は勝手口の扉を足で閉めて那智の手を引いて駆けた。

焦げる臭いが早速鼻腔を擽るけど、一瞥もすることなく、俺と那智はブロック塀を乗り越えて待ち伏せていた鳥井の車に乗り込む。


「遅いって」


三分遅れだぞ、鳥井は愚痴りながら、さっさと車を走らせる。

母親を乗せていた車とはまた別の車、正真正銘、鳥井の車だった。


母親の恋人を乗せた車はどっかで処分してきたんだろう。


燃え始める実家に、後部座席から眺めてみる。
窓の向こうから赤々と燃え始める炎。



嗚呼、あれは俺達がしたんだな。



そして今頃母親は―――…、これで良かったんだと思う。


情があるなら、トドメを刺して炎に放るべきだったんだろうけど、俺等は非情だから。
非情だから。


憎しみの炎に足掻きながらくたばればいいと思う。
思うんだ。


チリッと焼く胸の痛みを俺は無視した。

スンと洟を鳴らす那智が、背筋を伸ばして身震いをしていることに気付く。


「那智」声を掛けると、

「治樹兄さま」ピタッと震えを止めて那智は無垢な笑顔を見せてくる。


泣き笑いする那智は、残りは父だけだと口走る。