―――…少し時間は遡り、兄弟がクローゼットを閉めた後のこと。


「これでいいか」


まずはしっかりとクローゼットの扉を針金で固定して出られないように閉める。
 
次に那智を風呂場に連れて行って、血で汚れている服を全部脱がさせる。血に塗れていた手は洗い流した。

那智に母親のシャツを着させたらダボダボ。


「おっきい」


不貞腐れる那智に俺は一笑した。
あいつの匂いが纏わり付いているからあんまり那智に着させたくなかったけど、こればかりは仕方が無い。


と、身を震わせている那智に気付いた。


「那智」そっと声を掛けると、「ヘーキです」泣き笑いしてきた。


「兄さまが汚れるくらいなら、おれが汚れます。兄さまには汚れて欲しくないです。兄さまを傷付ける人…、敵です」


那智の真摯な気持ちに俺も泣き笑い。

思わず抱きめたくなったけど、時間が無い。
後でうんと抱き締めよう。


このまま母親を放置していても、その内出血多量で死ぬだろうけれど、どうしても俺達の手でやらないといけない。


思い出深いリビングキッチンや自室だった部屋、風呂場にトイレ、最後に二階の母親の寝室に、持参していた灯油を撒いて、俺は那智と共に勝手口へと向かう。


ライターを取り出して、俺は火を点す。




終わる…。


俺達の一つの…、思い出が終わる。




走馬灯のように思い出が蘇ってくるのは何故か。

最低の母親だったのに、今更ながら母親の思い出が蘇ってくるのは何故か。

まあ、叩いてる場面しか思い出さないけど…、それでもあいつは俺等の、“母親”だった。


どうして涙が伝ってくるのか、俺には分からない。

自分の犯す罪に怯えているのか、それとも―…。