恐る恐る振り返れば、シニカルに笑う金髪男がひとり。
リビングキッチンの入り口枠に寄り掛かり、携帯のストラップの輪に人差し指を引っ掛けてクルクルと回している。
見事に金に染まっている髪だが、男の顔に見覚えがあった。
ひゅっと声無き悲鳴を上げて後退する芙美子は、「何で」疑問を投げ掛ける。
実の子の顔に怖じ切ってしまった。
「あんた、鳥井に…」
「ンー、鳥井は俺の雇用人だからなぁー? 下川芙美子さん」
一言で芙美子は理解する。
鳥井は寝返っていたのだと…、最初から奴は敵だったのだ。
携帯を開く長男はそれを真っ二つに折った。
機械片と化す残骸をフローリングに落とし、
「これで連絡手段はパァ。警察もきませーん」
ニヒルに笑う長男がゆらっと動き出す。
「まさかあんたが、自分から俺等の復讐心に火を点けるなんざ。
分かってるのか?
あんた、自分から身を破滅に追いやったんだぜ? つくづく救えねぇな」
クスクスと長男は笑声を漏らし、歩み寄って来る。
護身用に何か無いかと目を配る芙美子だが、向こうの方が行動が早かった。
長い髪を掴み上げると、素早い動作で壁に顔面を叩き付けた。
鈍い音と呻き声が室内を満たすが、長男は愉快気に笑うだけ。
なんとも歪んだ笑みだろうか。
芙美子は痛みよりも恐怖に駆られて仕方が無かった。
次第次第に震える体を抑えることもできず、ただただ長男を見つめることしかできない。
長男は片手で煙草を取り出すと、それを銜え、器用にライターと持ち替えて火を点す。
「昔、あんたにこうして叱られたっけなぁ。
俺はあんたにこう言われた憶えがある。
『ガキなんて産むもんじゃねえな。邪魔なだけだ』だってな」
あれは堪えた、長男はニッと口角とつり上げて銜えていた煙草を眉間に当ててくる。
焼ける皮膚、産毛、毛穴、灼熱が顔面を襲い、芙美子は悲鳴と絶叫の狭間で声を上げた。
その場に蹲る芙美子を見下ろし、長男は「熱いだろ?」俺等はいつもそうされて生きてきたんだぜ、と煙草をふかす。



