恋人は白目剥き、口に泡を吹きながら、ぐったりと後部座席に寝転んでいた。
仏さんになっている恋人の顔と言ったら、まるで息絶えたカニのようだ。
南無、なんてお世辞でも言えない状況である。
ヒッと悲鳴を上げる芙美子は思わず鳥井に視線を投げた。
奴はにこやかに笑みを浮かべて、
「これが邪魔だな」座席下に死体を寝転ばせ、
「ドーゾ」再度乗るよう進めてくるが冗談ではない。
首を横に振る芙美子に、「んじゃ助手席に」鳥井はドアを閉めて、助手席に乗ってくるよう進めてくる。
逆らえば殺される気がした。
芙美子は恐る恐る助手席に乗る。
血の気が引く、とは、まさにこの状況を指すのではないだろうか。
反対側の席、つまり運転席に乗る鳥井は笑いながら、
「ちょいとなやっちまってなー」
能天気に語り部となる。
「あんたの恋人さん、殺っちまった。どうしてか? 経緯聞きたいか?」
芙美子は首を横に振った。
鳥井も説明する手間が省けると安堵したように笑いながらエンジンを掛ける。ラジオをつけ、鳥井は持参している煙草を口に銜えた。
一々動作にビクつく芙美子は、「ガキ達は?」鳥井に尋ねる。
その前に金だと鳥井が言うものだから、芙美子はサーッと青褪める。
百万ちょっとしか鞄には入っていないのだ。
契約金にまでは程遠い…、何せ自分達が交わした約束は二百万。
ヘマの分、五十万は差し引くと言ってくれたが、五十万足りない。
恋人が仏さんになっている今、強気に出ることはできず…、芙美子は一旦家に帰らせて欲しいと頼み込むことにした。
お金が足りない、怖々と頼めば鳥井が意味深に眉根を寄せる。
「おいおい。こっちはお仕事してきたんだぜ?
確かに兄弟はニュースになっちまってるけど、あんたのご要望どおり恋人さんと同じ仏さんにしてきた。
ヘマを差し引いて150万、きっちり払ってもらわないとこっちもやってけねぇよ」



