しかし、数年後、成長しきった長男が叛骨の刃を向ける。
徹底的に自分と夫と言うべき不倫相手を脅しに掛かってきたのだ。
今までの鬱憤を晴らすかの如く、自分達に猛威を振るってくる長男は狂犬にさえ思えた。
暴力には暴力で。
脅しには脅しで。
辛辣な言葉には辛辣な言葉で。
長男は自分の教訓をそのまま学んだらしく、いや、それ以上に学んだらしい。
自分以上の威圧を放ち、目を眇めて自分達を脅しに掛かった。
脅しだけでなく、長男は行動力で自分達を畳み掛けた。
飼い犬に手を噛まれた気分だった。
叛骨の刃を見せた日を境に、自分の立場は逆転。
長男が次男と家を出て行くまで、二子は堂々家の中を歩き回り、自分が身を小さくなって部屋に閉じこもっておかなければならなかった。最大の屈辱である。
すぐに奪い返せる立場だと思っていたが、長男は頭のキレる男だった。
何か行動を見せようとすれば、すぐさま脅しに掛かるのだ。
腕っ節の強い男で、ハッタリではない強さを持っていた。
そんな長男は能面が基本。
何を考えているか分からず、虎視眈々と自分の動きを監視していた。
少しでも癪に障れば爆ぜそうな性格を持っていた。長男は恐怖そのものだった。
だが長男も笑顔を見せる。
次男と接する時だけは、能面を取っ払い、綻んで愛する弟を抱き締める。
芙美子は長男の、弟への異常な愛を次第次第に気付く。
女なんぞ見向きもせず、「にーさま」舌足らずで名を呼ぶ弟を、まるで束縛するように傍に居ては愛していた。
次男は長男の異常愛に気付くこともなく、一身に受け止めて応えていた。
芙美子は思った。
自分を脅かす存在になるであろう長男を打ちのめすには、次男をどうにかするしかないと。
今まで面倒は看ていたが、やってきたことは虐待だ。
いずれ復讐心がこちらに刃を向けてくるに違いない。
射るような眼を投げ掛けてくる長男を見る度、芙美子は自分の身の危機を感じた。