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下川芙美子は今年で40、極々普通の専業主婦だった。


とはいえ外貌は明るい茶髪、齢40を迎えたとは思えない整った顔には高級な化粧を、世の若人には負けぬようブランド服を身に纏い、身形には人一倍気にしていた。
 

世の男共の大半は自分の美貌で落ちてくれるものだと、やや自分に陶酔する性格の持ち主でもあった。

裏を返せば、それだけ美貌に自信を持っていた女でもある。


不倫していた男との間に子供が生まれたが、疎ましさ勝って邪険扱いの日々。 

罪悪も最初の内は芽生えていたが、それも過ぎれば一種の快感。

子供の幼少は大いにストレス発散として扱っていた。

世間体では“虐待”と呼ばれている自分の行為、しかし芙美子は馬鹿ではなかった。


芙美子自身、気配りはしていたのだ。
 

少なからず子供に餌を与え、寝床を与え、ある程度の暴力以上は超えないよう気を遣っていた。
 
度を過ぎれば自分の行為は世間体にばれる。
子供に気を遣わないから自分の行為が明るみに出て、法廷で裁かれてしまうことを芙美子はよく知っていた。


だから授かった二子にはある程度の気配りをしていた。

近所では噂が立っていたが、さほど興味もなかった。
所詮噂で終わっていたのだから。


何故、子供を産もうなんて思ったか自身も分からないが、何となく産んでしまったのだ。


昔々の遠い昔、子供を愛そうなんて思ったこともあったが、今や夢話。

芙美子は子供を愛する気にはなれなかった。


愛情を求めてくる子供が疎ましくて仕方が無く、気持ち的にはペット扱いだったが、一方で子供が成長すれば使えるもの。


長男は次男の面倒を黙って看るようになったし、家事の一切もこなすようになった。

どんな辛辣な言葉も暴行も真摯に受け止め、文句一つ零すことなく従順になった。

次男は自分に怖じる表情を見せるものの、忠誠心を見せていた。

芙美子は、ちょっとした女王様気分を味わっていた。


哀れ、従順な二子はこのまま死ぬまで自分にこき使われてくれるものだろうとさえ思っていた。