「那智、俺等はもうじき死ぬ」


不意に告げる俺等の死の宣告。
顔を上げる那智は目を眇めて、「死ぬ?」聞き返す。

頷く俺は死ぬんだと繰り返す。


「死ねば学校にも通えなくなる。今までみてぇな生活は送れなくなる。俺等はこの世から消える。
―…死ぬことは恐いか?」

「勿論です」


当たり前だと頷く那智。俺も頷く。
やっぱ恐いよな。


「俺と一緒に死ぬって言っても恐いか?」

「兄さまが一緒なら恐さも半減です」

「そうか」

「そうです」


「死んでも兄さまの弟でいてくれるか?」

「ずっと弟がいいです。兄さまだけの、弟がいい」


泣きたい気持ちが込み上げてきた。
どうしょうもねぇ気持ちが湧いて、俺は那智の頬に触れて包み込む。向こうも動作を真似した。


「人並みの幸せ、欲しかっただけなのにな。どうしてこうなっちまうんだろうな、那智」

「でも兄さま、おれ、幸せですよ? 兄さまのお傍に居られるだけで、幸せ」

「そうか」

「そうです。兄さまは違う?」

「いや、兄さまも同じだと思う」

「そうですか」

「そうだ」


「兄さま、おれ、欲しいです」

「奇遇だな。同じことを思ってたところだ」


後は合図のように重ねるだけだった。
性欲を満たすためじゃなくて、渇望している愛情を満たすために。
両親に愛されなかった俺等は、こうやって兄弟で愛情を補うことで渇きを潤していくんだ。

弟と重ねるキスはやっぱドキドキしなかったけど、欲情もしなかったけど、飢えは満たされる。そんな気がした。

今度は舌でも入れてみるかな…。
うぇ…、ディープキスとか母親達の濡れ場をまんま思い出しちまう!

はぁーあ、やっぱ俺って不感症なのかなぁ。

なんて思いながら、俺は何度もキスを味わった。貪るように味わった。




「さーてと、お兄さんはいつ、お部屋に入っていいのやら」


てか…、あれはデキてるんじゃねえの?
デキてるでいいんじゃねえの?

ったくもう、何が悲しくて野郎同士のいっちゃーを見なきゃなんねぇんだよ。
泊まる選択肢、誤ったか?

浴室から出てきた鳥井が、ひっそりと嘆いたことに、俺等は気付く由もなかった。