「さてと、若旦那。
今日は此処に泊まってってもいいか? 家まで帰るのが面倒だし、どーせ明日は準備で此処に来なきゃなんねぇ」
「構わねぇよ。ただしベッドは俺等が使ってるから、一つしかねぇし」
「へーへーい。分かってるって。誰もあんた等の邪魔はしねぇよ。
ソファーあるし、そこで寝かせてもらうって」
シャワー借りるから。
腰を上げる鳥井は颯爽と浴室に向かう。
背を見送った俺は神妙な気持ちを抱いた後、テレビを観ている那智に歩み寄った。
歌番組を観ていた那智だけど、俺が来たことによって画面から目を放す。
「お話終わったんですか?」
那智の問い掛けに頷いた俺は、テレビを消すと軽々小さな体を抱えてベッドに上がる。
抵抗しない那智と一緒にスプリングの利いたベッドに沈んだ。
体を横に向けて、優しく手を握って、視線を合わせて、弟の顔を静かに見つめる。
見つめ返してくる那智は、変わらない笑顔で手を握り返してきた。
その手に目を落とした後、俺はゆっくりと那智を引き寄せて首筋に顔を埋めた。
いつもだったら噛み付くその肌に、今日は生温かい舌を這わせる。
ゆっくりと、舌を這わせて上っては下りる動作を繰り返す。
「くすぐったいです」
ざらっとした舌に那智がくすぐったいと笑い、俺は更に舌を這わせていく。
肌を舐めれば舐めるほど興奮していく自分がいた。本当に肌フェチだったみてぇだ俺。
いつまでも舌を這わせる。
時にちゅっと音を立てて吸う俺がいる。
やっていることで俺は飢えを満たしていた。
今日はもう泣かせたい気持ちとか、そういう嗜虐心は芽生えない。
けど那智の温もりを欲している俺がいる。
愛情に渇望している俺がいる。
那智を傷付けたいんじゃない、ただ愛されたいんだ。
家族に愛されたいだけなんだ。
早く家族から恋人って気持ちに変化すりゃいいのに。
そしたら俺、那智を抱けるのに。
那智…、もっと求めてくれ。
もっと俺を必要としてくれ。
俺の存在価値、一人の人間だけでいい。
絶対的な価値があるって思って欲しい。



