(旧)ふたりぼっち兄弟【BL寄り】

「ついに性癖に発展しちまったか。
ったく救えねぇな…、ほんと、俺も。あーあーあ」


俺の性癖は多分、飢餓が原因だと思う。

孤独だった幼少期を思い出すと、どうしても渇望しちまうんだ。
絶対的な愛情を、温もりを、優しさを。

一度だけ母親から逃げ出そうと、他人に助けを求めたことがあった。

けど、泣いている俺を誰も助けてはくれず、見向きもせず通行、結局母親に見つかって大目玉を食らった。


誰も助けてくれなかった。


絶望した。

こっそりと観ていたテレビアニメでは、必ず正義のヒーローって奴が困ってる奴を助けてくれるのに、現実はこんなもんなんだって思い知らされた。

 
母親や恋人に虐げられていた日々。

地獄だった日々に手を差し伸べてくれたのは、六つ年下の弟だった。

この世に生まれてきてくれた弟は、那智は、それまでモノクロだった世界に色を付けてくれた。

時に泣いていた俺と一緒に泣いて、俺を喜ばそうと行動を起こして、いっつも俺に甘えて頼って、俺に存在理由をくれて。


『にいしゃ、にいしゃ。
おたんじょーび、きょうね、きょうね! おめえとー!』


幼かった那智に初めて貰ったプレゼントは、俺が十の誕生日を迎えた時。

チラシの裏に鉛筆で描いたであろう下手くそな絵と、道端で摘んだであろう名も知らぬ花を俺に手渡してくれた。

物心付いた那智が誕生日の意味を知って、俺を喜ばそうとしたんだろう。


おめでとうの一言で十二分に嬉しかったのに、俺を喜ばそうと作ってくれた不恰好なプレゼントに…、嬉しくてうれしくて泣きじゃくった思い出がある。

なんで泣くのかって首を傾げる那智を抱き締めて、声を殺して泣いた。


生まれてきて良かったんだって実感したあの時の思い出―…。



俺は那智に目を向ける。
テレビを見つめている那智は、フンフンと鼻歌を歌ってアーティストと一緒に曲に合わせている。

その姿が可愛いし愛おしいと思うのは、やっぱ…、あいつが俺の大切な弟だからだろうな。

変な性癖が芽生えても、それは変わらない。
苛めてぇなんて思っても…、やっぱ愛したい気持ちも守りたい気持ちも変わらないんだ。