「若旦那は求められる快感を覚えちまったわけだ。
元々Sっ気強かったみたいだし?
ええもう、喧嘩のやり取りでよーく分かったさ。
あんたの鬼っぷりには俺も涙ちょちょ切れ。
あ? 何だその顔。
……はいはい、結論を言えってことね。
まあ、つまり、あんたは苛めることで、もっと求められたいって思ったんじゃねえか?
昨日の一件で気付いちまったんだろ。
求められる快感ってのを。
若旦那は欲情してるわけじゃない。
厄介な性癖を抱いちまったんだ。
もっと求められたいんだよ、弟くんに。
家族の愛情が強過ぎて、ついに求められたい気持ちが生まれたんだと思いますよ。
お兄さんの意見としては」
―――…合致した。
俺は鳥井の言葉に心底納得する。
俺は那智を抱きたいんじゃない。
肉体的に欲しているわけでもない。
もっと求められたいんだ。
那智があんな風に俺に懇願して、泣きながら、優しさや温もりを求めてくることが無かったから。
冷たくした分、那智は俺に依存を見せた。
追い詰めた分、那智は俺のために行動を起こそうとした。
それが嬉しくて仕方が無かった。
さっきも那智を嬲ることに興奮してたのは、俺の言葉に絶対的な価値があるからって分かってたから。
どんな表情を見せてくれるのか、ちょっとばっかし興奮して―…。
やっべぇ、自分の性癖にドン引くぞ。
俺、那智になんてこと思ってるんだろ。
そりゃ那智が俺中心の世界って思ってくれるのは嬉しいけど、兄貴としてこんなことを思うのは如何なものかと。
今まで那智を精一杯守ってきたのに。
「身を滅ぼしそうな性癖だ」
椅子の背凭れに凭れ掛かった天井を仰ぐ俺に、
「その難ある性格の方がよっぽどだと思うけどな」
鳥井は今更だと思うと指摘。
確かにそれはそうなんだけどな。



