「ナニ? 若旦那は弟くんを抱きたいわけ?」
「そういう気持ちはねぇ。ただ…、妙に胸がざわつく」
あいつが俺と同じように、ふたりぼっち世界を自分から望むようになった。
しかも心の底から。
同じ気持ちに達したんだって気持ちが満たされ、安堵感が包み込んだ瞬間、気持ちが疼く。
これは欲情なんだろうか。
だったら俺は那智を抱けるんだろうか?
暫く鳥井は思案に耽って煙草を吸っていたが、不意に俺と那智を交互に見やって指を鳴らす。
「快感になってんだ」
ワケの分からない答えに、俺は眉根を寄せるだけ。
けど鳥井は言葉を続ける。
「例えばだ若旦那。
弟くんが泣きながら縋り付いてきたらどうする? 嬉しいか?」
俺は想像してみる。
那智が泣きながら縋りつく光景を。背筋がゾクゾクッとした。
なんだ、この気持ち。
「じゃあ、今度はどっちが良いか想像して欲しい。
全力で嫌がる弟くんを力づくで捻じ伏せて服従させる方が良いか、積極的に求める弟くんを更に求めさせようと躾ける方が良いか」
想像してみる。
那智が俺を全力で拒絶する、んでもって俺がそれを捻じ伏せて服従させる光景。
あんましっくりこない。
寧ろ拒まれたらカチンきそうだ。
そりゃやんわり嫌がる分にはいいけど…。
じゃあ那智が積極的に俺を求めて、んでもって俺は更に那智に求めさせようと躾する。
あ…、やべぇすっげぇこっちの方が良い。
ゾクゾクしてくる。
俺は後者を選んだ。
すると鳥井はやっぱり、と苦々しく笑ってふーっと紫煙を吐き出す。



