狂い始めた俺達。
元々狂っていた俺達だけど、一年前よりもはるかに狂気に染まり始めている。
地獄の日々に身を潜めていた時は、そこから抜け出そうと必死にもがいていた。
ふたりぼっちが当たり前で、周囲の世界なんて気にする余裕もなかった。
だけどこの一年。
人並みの生活を手に入れてから、俺達は周囲の世界に目を向ける余裕ができた。
目を向ければ向けるほどふたりぼっちの世界は決壊していく。
幼少期に孤独を体験した俺は、ふたり以外の世界はイラナイと割り切っていた。
対し、本当の孤独を経験していない那智は周囲の世界に興味を持ち始める。
平和な生活は徐々に俺達の世界を脅かしていたんだ。
崩れていっていたんだ。
複雑に絡み合う一件の事件を契機に、俺達の世界は急速に崩壊していっていたんだ。
俺達は人並みの幸せと生活を望んで生きていた。
だけど、それは俺達の世界を壊す糸口だったんだ。
解けて片崩れしていく世界に、那智が外界に駆けて行くことに、俺はどっかで怯えていた。
「まず俺と一緒に風呂に入ろう那智。
昨日、ド変態親父に触られちまったんだから綺麗にしないと。
見えなくても他人の名残が付いてるなんて俺が許さない。
てめぇに触っていいのは兄さまだけだ。
俺はまだ那智に欲情しねぇけど、いつか欲情する日があったら―…。
それとも、先にメシにするか? 腹も減っただろ」
那智は小さく首を横に振った。
「汚いのはやです」
言葉を濁す那智は、随分と俺の言葉を真に受けているらしい。
一々汚れだの悪い子だの気にしている。
いい子だと頭を撫でて、俺は那智を抱き起こす。
乱れた髪を戻すこともせず、那智は小さく首を傾げて俺に聞いた。



